2011年 10月 27日
《豊穣のバッハ》と《ポッペアの戴冠》 |
皆様、たいへんお久しぶりです。私は、子供の頃から「三日坊主」の気がありましたが、このブログ、何と2年5ヶ月もお休みしてしまいました。このほど、ホームページを再開したのに伴い、ブログの方もあまり気合いを入れない!!!!!で再開することにしました。いつまで続くかわかりませんが、応援して下さい。よろしくお願いします。
この期に、バックナンバーも見て下さいね。結構、面白い記事もありますよ。前回は、気合いを入れすぎて長続きしませんでした。ですから、今回は少しリラックス・ムードでやりたいと思っています。
再開第1号は、いま一番力を入れている2つの公演のご案内です。
山手プロムナード・コンサート第23回『豊穣のバッハ』
2011年11月19日(土)開演14.00
横浜みなとみらいホール 小ホール
全自由席 一般4000円/学生2500円/会員:一般3500円
ご予約・お問合せ(マネジメント):オフィスアルシュ03-3565-6771
主催:横浜古楽プロジェクト
このコンサートでは、バッハの最も華やかな作品をお届けします。
《管弦楽組曲第1番ハ長調BWV1066》
この作品は、私にとってはとても懐かしい曲の1つです。1980年に留学先のオランダから帰国した時、一番やりたかったのは古楽器によるバロック・オーケストラを立ち上げることでした。留学仲間でもある本間正史さん(オーボエ)、彼の親友でその時は初対面だった堂坂清高さん(ファゴット)、桐朋学園を卒業したばかりの鈴木秀美くん(チェロ)、若松夏美さん(ヴァイオリン)、高田あずみさん(ヴァイオリン)などに集まって貰って、東久留米の「聖グレゴリオの家」で記念すべき初のコンサートを開いた時、オープニングに演奏したのがこの曲でした。バッハの組曲の中で、実際に踊ることのできる舞曲を連ねた作品は、この《管弦楽組曲第1番》とクラヴィーア独奏曲である《フランス風序曲》の2つだけです。実は、何を隠そう、《フランス風序曲》は今月初めに、懐かしの名器スコヴロネック作の二段鍵盤ドゥルケン・モデルで録音したばかりです。来月の《管弦楽組曲》もぜひ楽しみにおいで下さい。
~ナチュラル・トランペットの名曲を2曲も並べて~
11月は、はからずも、金管楽器の魅力を聞いて頂く公演が立て続けに2つ並ぶことになりました。その第1回目がこのバッハで、ナチュラル・トランペットの名曲を2曲並べて聴いて頂きます。金管楽器は、1つの音を出すだけでも難しく、猫が歩いても音が出る鍵盤楽器をやっている私としては全くの別世界です。そんなに難しい楽器であるだけあって、その音色の魅力は喩えようもありません。ナチュラル・トランペットは、モダン・トランペットに比べると、華やかながらも、耳に突き刺さってこない柔らかな音色が断然魅力!
《ブランデンブルク協奏曲第2番》で、バッハは、トランペットとリコーダーという、奇跡のような組み合わせを実現しました。モダン・トランペットでは考えられない組み合わせです!
カンタータ第51番『全地よ、神に向いて歓呼せよ』は、1730年に作曲された異色の教会カンタータで、今回のプログラムの中では最も後の作品ということになります。バッハの教会音楽におけるソプラノ・パートは、通常は清楚なボーイ・ソプラノの声のために書かれていますが、この曲は、例外的に女性のソプラノが名人芸を披露する、というもの。しかもここでは、そのソプラノがトランペットと共に超絶技巧を競い合うようなデュエットを展開するのです。この曲が演奏できるなんて、今から考えただけでもわくわくします。皆さんも楽しみにして下さいね。
2年半前のブログでご紹介した、私たちの親しい友人であったマリヤンネ・クヴェクジルバーは、レオンハルトの指揮によるテレフンケンのカンタータ全集でこのカンタータを歌っています。このレコードは、マリヤンネの国際デビュー盤となりました。3年前(2008年)の5月の末、レオンハルトの80歳の誕生日の頃に、オランダの放送局では毎日このレコードの華やかな冒頭部分をかけながらレオンハルトの80歳の誕生日を祝うメッセージを流していました。でも、私たちは、そのわずか2週間前にマリヤンネが悲劇的な最期を遂げたことを知っていたので、とても複雑な気持ちがしたものです。
ここで、ナチュラル・トランペットの画像を幾つかご紹介しましょう。最初の2本のトランペットは、バッハの時代よりも少し後の、19世紀の初頭、オーストリアのヨーゼフ・フッシャウアーという製作者の手に成るもの。
これは、1700年頃のニュルンベルクの楽器で、製作者はコーディッシュ。前の楽器もそうですが、ナチュラル・トランペットというと、紐と房が着いている楽器が多いのですが、何故なのか理由は知りません。でも、カッコいいでしょう?
最後のこの楽器は一番古く、1598年にニュルンベルクのアントン・シュニッツァー作。現存する古い金管楽器の中でも、最も芸術的な形状の楽器ということで有名です。
ついでにルネサンスから初期バロックにかけて活躍したコルネット(独名ツィンク)もご紹介しちゃいましょう。私に言わせれば、このコルネットは全ての楽器中で最も魅力的な音をもっています。
この写真でおわかりのように、木製で、リコーダーに似ているように見えますが曲がっているのが特徴。マウスピースを使って音を出すので金管楽器の仲間になるのです。ちょうど、現代の金属製のフルートが木管楽器なのと逆ですね。同じコルネットという名称でも、現代のコルネットとは形も音も全く違います。ルネサンスのコルネットは木ならではの柔らかな音色が持ち味です。27日の《ポッペアの戴冠》に登場しますので、乞うご期待!下の写真は、珍しい象牙のコルネット。
《結婚カンタータBWV202》は、バッハの世俗カンタータの中でも、特に優美で親しみやすい作品です。オーボエやヴァイオリン、チェロなどが活躍するアリアが聴きもの。
チェロのエマニュエル・ジラールさんとは、2月の「西洋館de古楽」で初共演しました。奥さんが仙台フィルのコンサートマスターなので、仙台に家があり、フランスと日本の間を行ったり来たり。6月に来日したフランスのチェンバリスト、クリストフ・ルセの主宰する「レ・タラン・リリク」で首席チェロ奏者を務めており、オペラなど声楽曲の伴奏はお手のもの。3月11日には、彼は仙台にいたので大変心配しましたが無事。この秋は、北とぴあの《コジ・ファン・トゥッテ》に出演後、《豊穣のバッハ》、《ポッペアの戴冠》が続きます。来年2月の「西洋館de古楽」では、ベートーヴェンのチェロ・ソナタを一緒にやる予定です。
ソプラノの西村有希子さんは、将来を嘱望される若手で、最近めきめき腕を上げています。昨年の神奈川県立音楽堂と一橋大学兼松講堂でのバッハ《ヨハネ受難曲》で、最後の悲しいアリアを印象的に歌い上げました。今回は、バッハの独唱カンタータを1回のコンサートで2曲も歌う、という大役に挑戦です。
《ポッペアの戴冠》
作曲:クラウディオ・モンテヴェルディ(1567-1643)
台本:ジョヴァンニ・フランチェスコ・ブゼネッロ(1598-1659)
2011年11月27日(日)14時開演(開場13時30分)
一橋大学兼松講堂(JR国立駅南口徒歩7分)
櫻田智子、高橋織子、阿部雅子、西村有希子、安田祥子(ソプラノ)
布施奈緒子、湯川亜也子、押見朋子(メゾ・ソプラノ)
葛西健治、長尾譲、内之倉勝哉(テノール)
小田川哲也、狩野賢一(バス)・・・・・登場順
オーケストラ:ザ・バロックバンド
ヴィオラ・ダ・ガンバ:平尾雅子
リュート:金子 浩
指揮とチェンバロ:渡邊順生
監修・解説:礒山 雅
演出:舘 亜里紗
音楽アドバイザー:櫻田 亮
前売券:S席=5000円、A席=4000円、学生券1500円
当日券は各500円増し
ご予約・お問合せ:コンセール・プルミエ042-662-6203(月~金 10:00~18:00)
主催:ボランティアチーム「如水コンサート企画」
チケット前売り:
一橋大学生協(西ショップ)、「白十字」南口店、国立楽器国立店、
くにたち市民芸術小ホール他、
CNプレイガイド、東京文化会館チケットサービス
出演者による2回連続「講演とミニ・コンサート」のお知らせ
《ポッペアの戴冠》をたっぷり楽しむ法
~その“毒”への処方箋~
第1回: 10月10日(月・祝)
「悪女はどう皇帝に取り入ったかの研究」
第2回: 10月30日(日)14時(開場13:30)
「悪女を取り巻く人間模様・神様模様の研究」
会場: 一橋大学佐野書院(全自由席、1000円)
お話: 礒山 雅(国立音楽大学教授)
演奏: 渡邊順生(リュートチェンバロ)、櫻田智子、高橋織子(ソプラノ)
予約申込み: コンセール・プルミエ042-662-6203(月~金 10:00~18:00)
CLAUDIO MONTEVERDI [1567-1643]
これまでの経緯と今公演の特徴
モンテヴェルディ最後のオペラ《ポッペアの戴冠》の公演は、音楽学者の礒山雅さんとの共同プロジェクトで今回が3回目。第1回は、昨年12月26日、長野県須坂市のメセナ・ホールで礒山さんが定期的に行っておられる「すざかバッハの会」での公演。これは一種のレクチャー・コンサートのスタイルでした。礒山さんのブログ「I教授の談話室」12月22日のコーナーに、リハーサルの詳細な報告が掲載されています。この時は、器楽がヴァイオリン2本、ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、そして私のリュート・チェンバロで、総勢5名という簡素なもの。全体で正味2時間ほどの場面を抜き出したハイライト上演。関係者一同、《ポッペア》の素晴らしさにのめりこみ、再演の意気に燃えました。功労者は全員ですが、中でもヴィオラ・ダ・ガンバの平尾雅子さん(写真)は、演奏だけでなく、女性出演者達の着る衣装の大半を提供してくれ、大変なエネルギーを注ぎ込んでくれました。大感謝!です。
2度目は今春5月26日、国分寺市立いずみホールで、「楽しいクラシックの会」の主催による上演。やはり礒山さんが立川で定期的に行っておられる「楽しいクラシックの会」の25周年記念事業ということで、会場を響きの良いいずみホールに移し、取り上げる場面や器楽部門をささやかに少し拡充しての再演でした。礒山さんは、前回同様、音楽監督も務められました。
そして今回3度目の正直で、ほぼ全曲演奏(「に近い」と言うべきか)に挑戦です。今回は全体の総監督も委せて頂きましたので、責任重大です。全曲ノーカットで上演すると3時間半以上かかる(マルゴワール指揮のレコードでは3時間39分)ところを、アチコチの場面を少しずつ短縮しながら全場面を演奏する、というやり方で、演奏時間の合計が正味で2時間45分程度になるように調整しました。市販のDVDなどでも2時間半から3時間程度のものが大半で、通常この程度の長さに縮めて乗するのが一般的なようです。
これまでの歌手陣は国立音楽大学の博士後期課程に在学中の諸君が中心でしたが、今回は若手から中堅のプロを加え、器楽陣も大幅に拡充。コルネットやリコーダーなどの管楽器も加え、通奏低音も、チェロ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、ファゴット(ドゥルツィアン)、リュート、ハープ、オルガン、チェンバロ、リュート・チェンバロと沢山の楽器を並べて多彩な音色をお聴かせします。
「ポッペアの戴冠」公演によせて
礒山 雅(国立音楽大学教授)
偉大なるモンテヴェルディ(1567~1643)が晩年の叡智を傾けたオペラ《ポッペアの戴冠》(1642年初演)。それは、イタリア初期バロックの記念碑であるばかりではなく、オペラ史全体を通じても、珠玉の逸品に数えられる名作です。
時代は紀元65年の古代ローマ。野心的な美女、ポッペアは恋人オットーネ〔夫とする説も〕を捨て、皇帝ネローネ(ネロ)を色仕掛けで籠絡し、有徳の哲学者セネカを自殺させ、皇后オッターヴィアは小舟で追放させて、妃の座へと昇り詰めます。そしてその歓喜の歩みを、天上から愛の神が支援するのです。
勧善懲悪とかけ離れたこの強烈なストーリーを、モンテヴェルディは本質のみに切り詰められた音楽によってリアルに、また官能性豊かに描き出しました。現世の享楽も美徳の追及も一瞬にして吹き飛ばしてしまう不条理な愛のドラマは、人間とは何かを考えさせずにはおきません。
2010年度のサントリー音楽賞を授与された古楽演奏の第一人者で、モンテヴェルディに
傾倒する渡邊順生氏がリュートチェンバロを弾きながら指揮し、ヴィオラ・ダ・ガンバの名手平尾雅子さんが通奏低音に入る管弦楽はぜいたくのきわみ。声楽は、国立音大ドクター・コースを中心とする若手が経験豊かな歌い手と共に、全力投球で魅力を競い合います。私も解説役として《ポッペアの戴冠》の美しくも危険な世界へと、皆さまをご案内申し上げます。
《ポッペアの戴冠》 あらすじ(by渡邊順生)
プロローグ
「幸運の神」と「美徳の神」という二人の女神が、自分たちの、世界に対する影響力の大きさを主張して激しく言い争う。そこに「愛の神」(アモーレ)が登場し、世界を動かす力の大きさにおいては自分の方が勝っていると言い、「あなたがたは今日、私の力の大きさを思い知ることになる」と予言する。
第1幕
ローマの将軍オットーネは、ある朝、軍務から解放されてローマに帰還するが、そこで彼は、愛する妻のポッペア〔恋人という説も〕が、自分の不在の間に皇帝ネローネと密通を重ねていたことを知って愕然とする。ポッペアは、皇妃の位を手に入れようと、あらゆる手練手管を用いてネローネを籠絡しようとし、貴人との情事の危険を説く乳母アルナルタの諫言にも耳を貸さない。
一方、ネローネの不義のため怒りと悲しみに苛まれる皇妃オッタヴィアは、神々に復讐を嘆願し、ネローネの師で哲学者のセネカにその苦しい胸の内を明かして助けを求めるが、セネカは冷静に苦しみに耐えるよう忠告する。そうしたセネカを、小姓が、机上の空論を振り回すばかりで辛い現実を解決する術を持たないと嘲笑する。
女神パラデによって死の近いことを知らされたセネカは、それまでの傍観者的な態度を棄て、敢然とネローネの不徳を攻撃してネローネを激怒させる。ポッペアは邪魔者セネカに死を命ずるようにネローネを仕向け、また、彼女を忘れられないオットーネには残酷な別れの言葉を投げつける。そこにオットーネを恋い慕う貴婦人ドゥルジッラが現れるのでオットーネは彼女に乗り換えようとするが、ポッペアを忘れることは出来ない。
第2幕
解放奴隷で近衛兵の隊長が、ネローネからの自殺命令を伝えるためにセネカの別荘を訪れる。セネカを引き留めようと現世の美しさを説く親友たちの言葉も空しく、泰然として死に赴くセネカ。その後に、オッタヴィアの小姓と侍女の軽妙な恋のやり取り、ポッペアの美しさを讃えるネローネと詩人ルカーノの二重唱が続く。
セネカという味方を失った皇妃オッタヴィアは、オットーネを喚び出してポッペアを密かに暗殺するよう命じる。オットーネはドゥルジッラの衣装を借りて女装し、午睡中のポッペアを殺そうとするが、天から下ってきた愛の神(アモーレ)がその危急を救う。
第3幕
オットーネを待ち侘びるドゥルジッラは、アルナルタの告発によって捕えられ、ネローネの前に引き出されるが、そこへオットーネが現れて下手人は自分であり、オッタヴィアの命によってポッペアを殺そうとしたことを白状する。今やオッタヴィアを追放する大義名分を得たネローネはオットーネとドゥルジッラを許し、オッタヴィアを小舟に乗せて流すことを命ずる。皇妃オッタヴィアの嘆きの歌、女主人と自分自身の出世と幸運を喜ぶ乳母アルナルタの歌を経て、ポッペアを讃える音楽となり、ポッペアは晴れて皇妃の冠を与えられ、ここに彼女の野望は成就するのだった。
さて、明日以降も、《ポッペアの戴冠》についてはいろいろな記事を掲載して行きたいと思っています。乞う、ご期待!
この期に、バックナンバーも見て下さいね。結構、面白い記事もありますよ。前回は、気合いを入れすぎて長続きしませんでした。ですから、今回は少しリラックス・ムードでやりたいと思っています。
再開第1号は、いま一番力を入れている2つの公演のご案内です。
山手プロムナード・コンサート第23回『豊穣のバッハ』
2011年11月19日(土)開演14.00
横浜みなとみらいホール 小ホール
全自由席 一般4000円/学生2500円/会員:一般3500円
ご予約・お問合せ(マネジメント):オフィスアルシュ03-3565-6771
主催:横浜古楽プロジェクト
このコンサートでは、バッハの最も華やかな作品をお届けします。
《管弦楽組曲第1番ハ長調BWV1066》
この作品は、私にとってはとても懐かしい曲の1つです。1980年に留学先のオランダから帰国した時、一番やりたかったのは古楽器によるバロック・オーケストラを立ち上げることでした。留学仲間でもある本間正史さん(オーボエ)、彼の親友でその時は初対面だった堂坂清高さん(ファゴット)、桐朋学園を卒業したばかりの鈴木秀美くん(チェロ)、若松夏美さん(ヴァイオリン)、高田あずみさん(ヴァイオリン)などに集まって貰って、東久留米の「聖グレゴリオの家」で記念すべき初のコンサートを開いた時、オープニングに演奏したのがこの曲でした。バッハの組曲の中で、実際に踊ることのできる舞曲を連ねた作品は、この《管弦楽組曲第1番》とクラヴィーア独奏曲である《フランス風序曲》の2つだけです。実は、何を隠そう、《フランス風序曲》は今月初めに、懐かしの名器スコヴロネック作の二段鍵盤ドゥルケン・モデルで録音したばかりです。来月の《管弦楽組曲》もぜひ楽しみにおいで下さい。
~ナチュラル・トランペットの名曲を2曲も並べて~
11月は、はからずも、金管楽器の魅力を聞いて頂く公演が立て続けに2つ並ぶことになりました。その第1回目がこのバッハで、ナチュラル・トランペットの名曲を2曲並べて聴いて頂きます。金管楽器は、1つの音を出すだけでも難しく、猫が歩いても音が出る鍵盤楽器をやっている私としては全くの別世界です。そんなに難しい楽器であるだけあって、その音色の魅力は喩えようもありません。ナチュラル・トランペットは、モダン・トランペットに比べると、華やかながらも、耳に突き刺さってこない柔らかな音色が断然魅力!
《ブランデンブルク協奏曲第2番》で、バッハは、トランペットとリコーダーという、奇跡のような組み合わせを実現しました。モダン・トランペットでは考えられない組み合わせです!
カンタータ第51番『全地よ、神に向いて歓呼せよ』は、1730年に作曲された異色の教会カンタータで、今回のプログラムの中では最も後の作品ということになります。バッハの教会音楽におけるソプラノ・パートは、通常は清楚なボーイ・ソプラノの声のために書かれていますが、この曲は、例外的に女性のソプラノが名人芸を披露する、というもの。しかもここでは、そのソプラノがトランペットと共に超絶技巧を競い合うようなデュエットを展開するのです。この曲が演奏できるなんて、今から考えただけでもわくわくします。皆さんも楽しみにして下さいね。
2年半前のブログでご紹介した、私たちの親しい友人であったマリヤンネ・クヴェクジルバーは、レオンハルトの指揮によるテレフンケンのカンタータ全集でこのカンタータを歌っています。このレコードは、マリヤンネの国際デビュー盤となりました。3年前(2008年)の5月の末、レオンハルトの80歳の誕生日の頃に、オランダの放送局では毎日このレコードの華やかな冒頭部分をかけながらレオンハルトの80歳の誕生日を祝うメッセージを流していました。でも、私たちは、そのわずか2週間前にマリヤンネが悲劇的な最期を遂げたことを知っていたので、とても複雑な気持ちがしたものです。
ここで、ナチュラル・トランペットの画像を幾つかご紹介しましょう。最初の2本のトランペットは、バッハの時代よりも少し後の、19世紀の初頭、オーストリアのヨーゼフ・フッシャウアーという製作者の手に成るもの。
これは、1700年頃のニュルンベルクの楽器で、製作者はコーディッシュ。前の楽器もそうですが、ナチュラル・トランペットというと、紐と房が着いている楽器が多いのですが、何故なのか理由は知りません。でも、カッコいいでしょう?
最後のこの楽器は一番古く、1598年にニュルンベルクのアントン・シュニッツァー作。現存する古い金管楽器の中でも、最も芸術的な形状の楽器ということで有名です。
ついでにルネサンスから初期バロックにかけて活躍したコルネット(独名ツィンク)もご紹介しちゃいましょう。私に言わせれば、このコルネットは全ての楽器中で最も魅力的な音をもっています。
この写真でおわかりのように、木製で、リコーダーに似ているように見えますが曲がっているのが特徴。マウスピースを使って音を出すので金管楽器の仲間になるのです。ちょうど、現代の金属製のフルートが木管楽器なのと逆ですね。同じコルネットという名称でも、現代のコルネットとは形も音も全く違います。ルネサンスのコルネットは木ならではの柔らかな音色が持ち味です。27日の《ポッペアの戴冠》に登場しますので、乞うご期待!下の写真は、珍しい象牙のコルネット。
《結婚カンタータBWV202》は、バッハの世俗カンタータの中でも、特に優美で親しみやすい作品です。オーボエやヴァイオリン、チェロなどが活躍するアリアが聴きもの。
チェロのエマニュエル・ジラールさんとは、2月の「西洋館de古楽」で初共演しました。奥さんが仙台フィルのコンサートマスターなので、仙台に家があり、フランスと日本の間を行ったり来たり。6月に来日したフランスのチェンバリスト、クリストフ・ルセの主宰する「レ・タラン・リリク」で首席チェロ奏者を務めており、オペラなど声楽曲の伴奏はお手のもの。3月11日には、彼は仙台にいたので大変心配しましたが無事。この秋は、北とぴあの《コジ・ファン・トゥッテ》に出演後、《豊穣のバッハ》、《ポッペアの戴冠》が続きます。来年2月の「西洋館de古楽」では、ベートーヴェンのチェロ・ソナタを一緒にやる予定です。
ソプラノの西村有希子さんは、将来を嘱望される若手で、最近めきめき腕を上げています。昨年の神奈川県立音楽堂と一橋大学兼松講堂でのバッハ《ヨハネ受難曲》で、最後の悲しいアリアを印象的に歌い上げました。今回は、バッハの独唱カンタータを1回のコンサートで2曲も歌う、という大役に挑戦です。
《ポッペアの戴冠》
作曲:クラウディオ・モンテヴェルディ(1567-1643)
台本:ジョヴァンニ・フランチェスコ・ブゼネッロ(1598-1659)
2011年11月27日(日)14時開演(開場13時30分)
一橋大学兼松講堂(JR国立駅南口徒歩7分)
櫻田智子、高橋織子、阿部雅子、西村有希子、安田祥子(ソプラノ)
布施奈緒子、湯川亜也子、押見朋子(メゾ・ソプラノ)
葛西健治、長尾譲、内之倉勝哉(テノール)
小田川哲也、狩野賢一(バス)・・・・・登場順
オーケストラ:ザ・バロックバンド
ヴィオラ・ダ・ガンバ:平尾雅子
リュート:金子 浩
指揮とチェンバロ:渡邊順生
監修・解説:礒山 雅
演出:舘 亜里紗
音楽アドバイザー:櫻田 亮
前売券:S席=5000円、A席=4000円、学生券1500円
当日券は各500円増し
ご予約・お問合せ:コンセール・プルミエ042-662-6203(月~金 10:00~18:00)
主催:ボランティアチーム「如水コンサート企画」
チケット前売り:
一橋大学生協(西ショップ)、「白十字」南口店、国立楽器国立店、
くにたち市民芸術小ホール他、
CNプレイガイド、東京文化会館チケットサービス
出演者による2回連続「講演とミニ・コンサート」のお知らせ
《ポッペアの戴冠》をたっぷり楽しむ法
~その“毒”への処方箋~
第1回: 10月10日(月・祝)
「悪女はどう皇帝に取り入ったかの研究」
第2回: 10月30日(日)14時(開場13:30)
「悪女を取り巻く人間模様・神様模様の研究」
会場: 一橋大学佐野書院(全自由席、1000円)
お話: 礒山 雅(国立音楽大学教授)
演奏: 渡邊順生(リュートチェンバロ)、櫻田智子、高橋織子(ソプラノ)
予約申込み: コンセール・プルミエ042-662-6203(月~金 10:00~18:00)
CLAUDIO MONTEVERDI [1567-1643]
これまでの経緯と今公演の特徴
モンテヴェルディ最後のオペラ《ポッペアの戴冠》の公演は、音楽学者の礒山雅さんとの共同プロジェクトで今回が3回目。第1回は、昨年12月26日、長野県須坂市のメセナ・ホールで礒山さんが定期的に行っておられる「すざかバッハの会」での公演。これは一種のレクチャー・コンサートのスタイルでした。礒山さんのブログ「I教授の談話室」12月22日のコーナーに、リハーサルの詳細な報告が掲載されています。この時は、器楽がヴァイオリン2本、ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、そして私のリュート・チェンバロで、総勢5名という簡素なもの。全体で正味2時間ほどの場面を抜き出したハイライト上演。関係者一同、《ポッペア》の素晴らしさにのめりこみ、再演の意気に燃えました。功労者は全員ですが、中でもヴィオラ・ダ・ガンバの平尾雅子さん(写真)は、演奏だけでなく、女性出演者達の着る衣装の大半を提供してくれ、大変なエネルギーを注ぎ込んでくれました。大感謝!です。
2度目は今春5月26日、国分寺市立いずみホールで、「楽しいクラシックの会」の主催による上演。やはり礒山さんが立川で定期的に行っておられる「楽しいクラシックの会」の25周年記念事業ということで、会場を響きの良いいずみホールに移し、取り上げる場面や器楽部門をささやかに少し拡充しての再演でした。礒山さんは、前回同様、音楽監督も務められました。
そして今回3度目の正直で、ほぼ全曲演奏(「に近い」と言うべきか)に挑戦です。今回は全体の総監督も委せて頂きましたので、責任重大です。全曲ノーカットで上演すると3時間半以上かかる(マルゴワール指揮のレコードでは3時間39分)ところを、アチコチの場面を少しずつ短縮しながら全場面を演奏する、というやり方で、演奏時間の合計が正味で2時間45分程度になるように調整しました。市販のDVDなどでも2時間半から3時間程度のものが大半で、通常この程度の長さに縮めて乗するのが一般的なようです。
これまでの歌手陣は国立音楽大学の博士後期課程に在学中の諸君が中心でしたが、今回は若手から中堅のプロを加え、器楽陣も大幅に拡充。コルネットやリコーダーなどの管楽器も加え、通奏低音も、チェロ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、ファゴット(ドゥルツィアン)、リュート、ハープ、オルガン、チェンバロ、リュート・チェンバロと沢山の楽器を並べて多彩な音色をお聴かせします。
「ポッペアの戴冠」公演によせて
礒山 雅(国立音楽大学教授)
偉大なるモンテヴェルディ(1567~1643)が晩年の叡智を傾けたオペラ《ポッペアの戴冠》(1642年初演)。それは、イタリア初期バロックの記念碑であるばかりではなく、オペラ史全体を通じても、珠玉の逸品に数えられる名作です。
時代は紀元65年の古代ローマ。野心的な美女、ポッペアは恋人オットーネ〔夫とする説も〕を捨て、皇帝ネローネ(ネロ)を色仕掛けで籠絡し、有徳の哲学者セネカを自殺させ、皇后オッターヴィアは小舟で追放させて、妃の座へと昇り詰めます。そしてその歓喜の歩みを、天上から愛の神が支援するのです。
勧善懲悪とかけ離れたこの強烈なストーリーを、モンテヴェルディは本質のみに切り詰められた音楽によってリアルに、また官能性豊かに描き出しました。現世の享楽も美徳の追及も一瞬にして吹き飛ばしてしまう不条理な愛のドラマは、人間とは何かを考えさせずにはおきません。
2010年度のサントリー音楽賞を授与された古楽演奏の第一人者で、モンテヴェルディに
傾倒する渡邊順生氏がリュートチェンバロを弾きながら指揮し、ヴィオラ・ダ・ガンバの名手平尾雅子さんが通奏低音に入る管弦楽はぜいたくのきわみ。声楽は、国立音大ドクター・コースを中心とする若手が経験豊かな歌い手と共に、全力投球で魅力を競い合います。私も解説役として《ポッペアの戴冠》の美しくも危険な世界へと、皆さまをご案内申し上げます。
《ポッペアの戴冠》 あらすじ(by渡邊順生)
プロローグ
「幸運の神」と「美徳の神」という二人の女神が、自分たちの、世界に対する影響力の大きさを主張して激しく言い争う。そこに「愛の神」(アモーレ)が登場し、世界を動かす力の大きさにおいては自分の方が勝っていると言い、「あなたがたは今日、私の力の大きさを思い知ることになる」と予言する。
第1幕
ローマの将軍オットーネは、ある朝、軍務から解放されてローマに帰還するが、そこで彼は、愛する妻のポッペア〔恋人という説も〕が、自分の不在の間に皇帝ネローネと密通を重ねていたことを知って愕然とする。ポッペアは、皇妃の位を手に入れようと、あらゆる手練手管を用いてネローネを籠絡しようとし、貴人との情事の危険を説く乳母アルナルタの諫言にも耳を貸さない。
一方、ネローネの不義のため怒りと悲しみに苛まれる皇妃オッタヴィアは、神々に復讐を嘆願し、ネローネの師で哲学者のセネカにその苦しい胸の内を明かして助けを求めるが、セネカは冷静に苦しみに耐えるよう忠告する。そうしたセネカを、小姓が、机上の空論を振り回すばかりで辛い現実を解決する術を持たないと嘲笑する。
女神パラデによって死の近いことを知らされたセネカは、それまでの傍観者的な態度を棄て、敢然とネローネの不徳を攻撃してネローネを激怒させる。ポッペアは邪魔者セネカに死を命ずるようにネローネを仕向け、また、彼女を忘れられないオットーネには残酷な別れの言葉を投げつける。そこにオットーネを恋い慕う貴婦人ドゥルジッラが現れるのでオットーネは彼女に乗り換えようとするが、ポッペアを忘れることは出来ない。
第2幕
解放奴隷で近衛兵の隊長が、ネローネからの自殺命令を伝えるためにセネカの別荘を訪れる。セネカを引き留めようと現世の美しさを説く親友たちの言葉も空しく、泰然として死に赴くセネカ。その後に、オッタヴィアの小姓と侍女の軽妙な恋のやり取り、ポッペアの美しさを讃えるネローネと詩人ルカーノの二重唱が続く。
セネカという味方を失った皇妃オッタヴィアは、オットーネを喚び出してポッペアを密かに暗殺するよう命じる。オットーネはドゥルジッラの衣装を借りて女装し、午睡中のポッペアを殺そうとするが、天から下ってきた愛の神(アモーレ)がその危急を救う。
第3幕
オットーネを待ち侘びるドゥルジッラは、アルナルタの告発によって捕えられ、ネローネの前に引き出されるが、そこへオットーネが現れて下手人は自分であり、オッタヴィアの命によってポッペアを殺そうとしたことを白状する。今やオッタヴィアを追放する大義名分を得たネローネはオットーネとドゥルジッラを許し、オッタヴィアを小舟に乗せて流すことを命ずる。皇妃オッタヴィアの嘆きの歌、女主人と自分自身の出世と幸運を喜ぶ乳母アルナルタの歌を経て、ポッペアを讃える音楽となり、ポッペアは晴れて皇妃の冠を与えられ、ここに彼女の野望は成就するのだった。
さて、明日以降も、《ポッペアの戴冠》についてはいろいろな記事を掲載して行きたいと思っています。乞う、ご期待!
by cembalofortepiano
| 2011-10-27 17:47
| コンサート